中山康樹「マイルスの夏、1969」

中山康樹「マイルスの夏、1969」を読んだ。タイトル通り、マイルス・デイヴィスの1969年夏を詳しく描いた本。マイルスの1969年の夏とは何なのかというと、あの “Bitches Brew” が録音された年。

この本では、1969年から少し遡ったところから物語がスタートし、「へーっ、そうだったのか」と驚く事実の連続で、マイルスの熱い1969年の夏が語られる。マイルスが如何にして多彩な人々からの影響を昇華し、自らの音楽を前進させ、そして “Bitches Brew” の録音に至ったのか。

登場人物は多岐にわたるが、ジャズでおなじみのプレイヤーでは、ウェイン・ショーター、ジョー・ザヴィヌル、ハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョン・マクラフリン、トニー・ウィリアムズ、ジャック・ディジョネット、ロン・カーター、デイヴ・ホランドなど。・・・ 楽器毎に列記してみたけど、マイルスの音楽活動の時系列では、これらの人々がどんどん入れ替わって登場する。ハービー・ハンコックの後任がチック・コリア、トニー・ウィリアムズの後任がジャック・ディジョネット、など。しかも、脱退(卒業?)したメンバもマイルスとの信頼関係は続いており、セッションには参加したりしたから、複雑だ。例えば1969年発表のアルバム「キリマンジャロの娘」なんかは、第二期黄金クインテットによる演奏と新メンバ参加による演奏がそれぞれ数曲っていう感じ。

ま、それがジャズってことだし、マイルスってことだし、ええこっちゃなーって思うけど。

マイルスの音楽人生においてテオ・マセロの存在は欠かすことができないものだったという事実には誰も異論を抱かないはずだが、サイモン&ガーファンクルの音楽が間接的に関わっていたというのは意外。あくまで間接的に、ではあるが、物事っていろんな形でつながっている。もちろん、”Bitches Brew”においてもテオ・マセロは重要な仕事をする。

そして、ジミ・ヘンドリックス。この人の存在も、エレクトリック・マイルスを語る際に欠かせない。マイルスとのライヴや録音が実現しなかったというのは周知の事実だが、やはりジミヘンの存在はこの時期のマイルスのみならず、マイルスを取り巻くその他ミュージシャンの音楽にも大きな影響を与えた。

マイルスが多彩な人々からの影響で自らの音楽を前進させた、と先ほど書いた。しかし、決して帝王マイルスの環境が良かったということではなく、マイルス自らが価値あるものを探し出し、手元に引き寄せ、吸収したのだ。いつも何でも待ってるだけっていう自分が情けないですな!

それにしても、中山康樹の本、特にマイルスに関するものはどうしてこんなにワクワクするのか。客観的事実の積み重ね、それらをつなぎ合わせて浮き上がらせる帝王の行動心理や生活の変化、苦悩といった人間臭い一面。マイルスへの愛がそれらをより一層熱く表現する。中山康樹のマイルス本は、もはや文学の1ジャンルだ。

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