金谷幸三「ラブ・ソングス」

クラシックギターの、どえらいアルバムが現れた。関西を中心に活躍される名手・金谷幸三氏による小品集「ラブ・ソングス」。金谷氏のCDでは、以前「失われし望み≠FORLORNE HOPE」(レコード芸術誌「準特選」)の美しさに衝撃を受け、当ブログでも「クラシックギターの本当の美しさを知りたい人には、真っ先にこのCDを薦める」と書いたが、今回の「ラブ・ソングス」は、これまたすごい。限りなく洒落たセンスで美しく歌うギターを堪能できる極上の一枚だ。 “金谷幸三「ラブ・ソングス」” の続きを読む

Boulez Conducts Ravel and Debussy

Boulez Conducts Ravel and Debussy
最近、BOXセットがやたら安いのでいくつか買ってしまったうちの1つ。Boulez指揮による録音は、自作自演と現代もの以外だと、マーラーとかストラヴィンスキーなどを持っていて、特にマーラーの交響曲なんかはとても気に入っていたので、ドビュッシーとラヴェルのこのセットを買った。

6枚組で2,000円台だから、どう考えてもお買い得。まだ全ては聴いていないのだが、この人の演奏の色彩感とか、透明感とか、ちょうど良いくらいの重さと軽やかさとか、やっぱり良い。

バーンスタインのマーラー交響曲集

Bernstein: Mahler Symphonies
最近、Amazonでやたらと安い値段のCDのBOXセットを見かける。たまたま車を運転しながらピエール・ブーレーズ指揮のマーラーの交響曲第9番を聴いてたら、なんかええなぁと感じたりしたので、全集を買ってみようと思い、バーンスタイン指揮ニューヨークフィルのBOXセット(「大地の歌」は収録されていない)を2600円程度で入手。

で、これもまた先日入手した講談社現代新書「マーラーの交響曲」(金聖響+玉木正之)も読んだりしながら、通勤時間にiPodで鑑賞中。

マーラーの交響曲 (講談社現代新書)

第1番から聴き始めて、繰り返して聴いたりしてるのでまだ第3番までしか到達していないのだが、マーラーの世界は本当に素晴らしく、しばらくはハマってしまいそうである。

第1番の第3楽章や第2番の第4楽章など、もうオペラか映画か、それらを上回るスケールのドラマを観ているかのような多彩な響き、緊張、官能、スリル、などが体験できる。ベートーベンという交響曲の絶対的な壁に挑み、そして乗り越えたのかどうかは定かではないがとにかく自らの世界を創ることに成功したマーラーの感動的な音楽。

第1番から順に、と思いつつ第9番はブーレーズ盤と比較するとどんな感じかと思って聴いてみたら、えらく響きが異なっており、これまた興味深い。個人的にはブーレーズ盤の方が好きであるが、何が違うのか、自分でもよくわからん。いろいろ考えながら、そしてまた繰り返し聴くのであるな。時間がいくらあっても、足りんぞ。

マーラー:交響曲第9番

Kathleen Battle at Carnegie Hall

Kathleen Battle at Carnegie Hall
秋になると、どうしても聴きたくなる、このアルバム。Kathleen Battle at Carnegie Hall。1991年のリサイタルの録音だから、もう20年も前なのか。私は学生だった1994年頃にこの盤を手に入れ、ボロ下宿のラジカセで、キャスリーン・バトルの澄んだ、限りなく美しい声に聴き入ったものだ。おそらくそれが秋だったから、秋になると聴きたくなるし、聴くと京都の紅葉を思い出す。

冒頭は、テレビCMで一世を風靡した「オンブラ・マイ・フ」。CMで流行った曲に聴き入るのはなんか悔しいのだが、ここはやはりひれ伏すしかない。潤いをもつ歌声に包まれ、鳥肌が立つ。いきなり聴く者を圧倒してしまう、あるいは虜にしてしまう魔法の歌声、これはいったい何なのか。

その後もモーツァルトのアリアやラフマニノフ、最後の方には黒人霊歌(これがもう、最高のセンス)まで出てきて、もうやられっぱなし。

ステージ外での行動についてはわりとネガティブな話が聞かれるバトルであるが、このCDにおけるバトルは、ひたすらに優しい歌声で聴く者を魅了する。このCDを手にして20年たったこの秋も、やはり私はこれを聴く。

金谷幸三 失われし望み

Forlorne_2関西在住の数少ない本格的なクラシックギタリストの一人、金谷幸三氏のCD「失われし望み≠FORLORNE HOPE」。

金谷氏は、1966生まれ、神戸出身。日本国内やパリ(国立高等音楽院、国際音楽大学)に学び、国内外の数々のコンクールで優勝や入賞をした輝かしい経歴を持つ。そのきわめて正統派の演奏スタイルは、エレガントで折り目正しい印象もあるが、同時にギターという楽器の繊細で優しいサウンドを極限まで追求した、ホンモノの美しさを湛えたものである。レパートリーはバロック以前のものから現代音楽まで幅広いが、特に現代ものにおいてはその演奏品質が他の追随を許さぬ高い評価を得ている。私自身の所感でも、現代音楽を真面目に手がける数少ないギタリストのうち、間違いなくトップレベルの音楽を聴かせるプレイヤーである。

Youtubeでもその素晴らしい演奏に触れることができる。例えば武満徹「フォリオス」の演奏など、もう他に何もいらないと思えるほどの絶品である。近年は11弦アルトギターにより、これまた新たな世界が展開されており、ギター好きには嬉しく感じる。

今回発表されたこのCDは、しかし、現代曲に特化したものではなく、H.パーセルからJ.ケージまでの幅広いレパートリーが取り上げられている。全て、使用楽器は11弦ギター。

J.ケージ作品では「夢」「In a Landscape」が取り上げられている。代表作(?)「4分33秒」などで「実験音楽」という印象が強いケージ作品群において、比較的、誰の耳にも馴染みやすいのではないかと思われるこれら2曲、ギターという楽器にとてもマッチしている。静かに、そこはかとなく流れ、時にゆらぎ、そしてまた流れ出す弦の音。生まれては減衰する音、そして新たに生まれる音がそこに絡むさまは、生命をもった水彩画か長大な絵巻物のようなものをイメージさせる。原曲、奏者による編曲、そして絶妙にコントロールされた演奏の全てが揃ったからこその効果であろう。

パーセルは、鍵盤のための組曲第1番と第2番。比較的シンプルなポリフォニーながら見事に音楽として流れ、まず演奏の技術の高さに驚く。端正かつ爽快な演奏なのだが、歌心も十分に感じられ、心地よい。

そして、ドビュッシーの「夢想」「ベルガマスク組曲」。これらの響き、衝撃的と言ってよいものだと思う。ドビュッシーのピアノ曲を編曲してギターで演奏するということ自体はこれまでにも「亜麻色の髪の乙女」「月光」など部分的には存在したものの、ここまでドビュッシーの音楽の響きを表現できたギター演奏は、過去にあっただろうか。11弦ギターだからこその音なのか、やはり演奏者の力量によるものなのか、おそらく後者なのだと思うが、もう、うっとりと耳を傾けるしかない、印象派ドビュッシーの理想的な音楽がここにはある。

収録曲は、そのほかにサティ「干からびた胎児」とダウランド「失われし望み」。紡ぎだされる音の世界に身を委ね、音楽を聴くことの喜びをかみしめる。とにかくギターという楽器の本当の美しさを知りたい人には、真っ先にこのCDを薦めたい。