東京都現代美術館にて開催中の「ひろがる地図」を観てきた。これは、この現代美術館と清澄白河エリアの数ヶ所が連携する展覧会らしいのだが、個人的に最も興味があったのは美術館内展示の今和泉隆行(地理人)氏の「空想地図」の世界。
「空想地図」とは、文字通り「実在しない都市の地図」なのだが、メディアやツールとしてのいわゆる「地図」の制作にとどまるものではない。その都市の人口、産業、交通などありとあらゆるものを想定した「空想都市」を具体化する営み(アート)なのだ。この今和泉氏の空想地図の代表作は、実在しない都市「中村市(なごむるし)」を20年以上も描き、改訂し続けているもの。市内にどんな地区があり、どんな歴史があり、どんな市民が住んでおり、バスや鉄道にはどんな路線があり・・・といったあらゆる情報が詳細に仮想/設定されており、地図はその表現手段となっているようだ。実は私は以前に雑誌の立ち読みでこの今和泉氏と空想地図について知っただけだったのだが、その(良い意味での)クレイジーな世界観、(素人からすると)常軌を逸したワークの印象が強烈で頭から離れずにいた。もともと「目的不明な趣味に没頭する人」に興奮してしまう私、空想地図に相当にずっと興味を抱き続けていたところ、この展覧会で展示されるということで、早速足を運んだ次第。
今和泉氏の展示は本展覧会の入口すぐの所にあった。初めて見る実物の空想地図。繰り返しになるが、単なる地図という図にとどまらない「活きた」世界を創造されているだけに、リアリティを感じる。生き生きとした生命が宿っていることを感じる。リアリティと矛盾するかもしれないが、「どんな街なんだろう?」という空想も刺激される。実在するのは地図を中心とする情報や中村市のゴミ袋といった「生命を持たない」ものばかりなのに、その先には市民や暮らしが実在するように実感してしまう。不思議すぎて怖い感覚もあるが、一流のファンタジーともいえる。この世界観、何なのだろう。
腹減った。東京都現代美術館には飲食店が2つあり、そのうち「二階のサンドイッチ」に行ってみた。食べたのは鯖サンド。少し温めて出してくれた。レモンとマヨネーズとパクチーがうまくバランスされていて、爽やかで落ち着いた味。魚が嫌いな人、パクチーが嫌いな人でも食べられそう。
ミュージアムショップも充実していて、特に展示を観て刺激を受けた後は何か買いたくなるのよね。空想地図の制作キットも売られている。いやホンマ楽しい美術館、楽しい展覧会であった。