絶対音感

絶対音感 (新潮文庫)

今さら、であるが、最相葉月「絶対音感」。ずっと前に買って途中まで読み、放置していたのだが、再度最初から読んでみたら、かなり面白かった。

手元のハードカバー本の奥付を見ると、1998年、第4刷とある。なぜ途中で放置していたのかというと、読み進める中で違和感を抱いていたから。どういうことかというと、著者が「絶対音感」という感覚/能力の存在を知ったのがわりと最近のようであったから。少なくとも、大人(社会人)になった後に、たまたま絶対音感を持つ人との会話の中で知った、という経緯が淡々と書かれていた。えっ、絶対音感という感覚/能力が存在することって、ごくごく一般常識じゃないの?何をいまさら!?と思った次第。実際、私の周囲には、音楽仲間じゃなくても普通に友達で絶対音感を持ってる奴とか昔からいたりして、へぇー、とか会話してたし、教育メソッドがあるのだから、絶対音感を持つ人間が「天才」とか思ったこともなかったし。

そんなわけで、何となく印象の悪い本として途中で読むのをやめて放置していたのを、最近、ふと再読してみようと思って、通勤電車の中で読み始めた。著者の絶対音感との出会いは相変わらず「ん?」と思ったり、パステルナークとスクリャービンの逸話に対する著者の解釈などもごく当たり前な話だったりするが、全体としてノンフィクションライターとしての調査は、かなり本格的。絶対音感をアホみたいに絶対視し、わが子に習得させようと必死になる親がいるとか、絶対音感といっても個人差(例えば、特定の音名に対する周波数の許容範囲)があるとか、相対音感との関係とか、現代音楽での絶対音感の利便性とか、内容は豊富である。インタビュー相手も、大物ミュージシャンや研究者などであり、とても興味深い。絶対音感を知らなかった著者が、ここまで優れたインタビューや情報の整理を行い、ストーリー性を持たせて一冊の本にまとめあげたのは、脱帽。楽しく読み進めてしまった。

趣味で音楽を楽しんでいる者にとっても、様々な点で示唆に富んだ内容のノンフィクション。

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