金谷幸三「ラブ・ソングス」

クラシックギターの、どえらいアルバムが現れた。関西を中心に活躍される名手・金谷幸三氏による小品集「ラブ・ソングス」。金谷氏のCDでは、以前「失われし望み≠FORLORNE HOPE」(レコード芸術誌「準特選」)の美しさに衝撃を受け、当ブログでも「クラシックギターの本当の美しさを知りたい人には、真っ先にこのCDを薦める」と書いたが、今回の「ラブ・ソングス」は、これまたすごい。限りなく洒落たセンスで美しく歌うギターを堪能できる極上の一枚だ。

クラシックギターの小品集っていうのは、まぁそれこそ世界中に星の数ほどありますわな。ホンマ色々ある。そして、この「ラブ・ソングス」はその最高峰だと断言する。

クラシックギターは、ことさらに色っぽく、あるいは湿っぽくギターを鳴らす演奏もたくさんある。あるいは、スケールをバキバキ弾きこなして爽快感半端ない、のど越し抜群の演奏。それぞれいいのだが、そういうのってわりと飽きてしまうのよね。それに対し、この「ラブ・ソングス」は、そんなねっとりした世界観やスピード重視の世界観とは一線を画す。気品を湛えつつ、リスナーに寄り添い美しく歌を聴かせる。そのサウンドは、お洒落であることこの上ない。エスプリというのは、まさにこういう演奏のためにある言葉だと思う。

そして、何といっても、ギターという楽器の可能性を最大限に引き出した演奏だということも実感する。速弾きという意味での超絶技巧とは全く異なるテクニックだが、ギターを体の一部にしてしまったかのように自由に6本の弦をあやつり歌を歌わせる技術はマジックのよう。繊細な楽器から生み出すダイナミクス。楽譜では全く表現できない絶妙なアルペジオ。心をわしづかみにされるアゴーギク。一体どうやったらこんな演奏ができるんやろ。まさにマジック。聴く者は、もはやスピーカーに向かい、紡ぎだされる音をうっとり聴くしかない。

演奏にあたっては、奏者自らの編曲の他、様々なギタリストによる編曲もベースにされている。奏者の師ミシェル・サダノフスキーもこういった編曲をしてたのね。興味深いな。他の編曲者の一人がローラン・ディアンス。このディアンスの演奏によるシャンソン集も持っているが、ややドライに過ぎた演奏で、私は繰り返し聴くことなく放置していたというのが正直なところ。アルジェリア生まれでパリで活躍したディアンスに対し、日本生まれでパリで学んだ金谷氏の演奏の違い、っていうのは余計な考えが過ぎるか。とにかく金谷氏の演奏における美の追求に軍配を上げる。クラシックギターのCDって30年以上聴いてきたが、こんな素晴らしいセンスの演奏は他に知らない。

ライナーノートに奏者自身による「愛」についてのコメントがあるが、この盤を聴くにあたって、「愛」を堅苦しく意識する必要はないと思う。1曲目がスタートしたら、あとはひたすらこの洒落た美に身を委ねるだけだ。

使用楽器はヘルマン・ハウザー1世(1938年)。ヨーロッパの美の流れを礎としつつ唯一無二の世界を持つ金谷氏に生命を吹き込まれた、究極の歌たち。こんなに素晴らしい音楽に出会えるっていうのは、幸福というしかない。

「ラブ・ソングス」は金谷幸三氏のサイトから入手可能。

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