きつねのトンプソンを聴く

ラグタイムを中心に、あらゆる音楽をユニークなスタイルで演奏してしまう、きつねのトンプソン、週末のライヴ。木琴、バンジョー、ドラム、ベースという編成で、それぞれが凄腕のプレイヤーなのに、和める音楽を作り出してしまうという謎のカルテット。

実はライヴは初めて聴く、きつねのトンプソン。開演の少し前にお店に到着。前方のいい席に着く。

オープニングはプロコフィエフの「ピーターと狼」から。きつねなのに、狼。なるほど、そうかー。このバンドのサウンドや佇まいにピッタリな音楽。次はどんな曲やろか、と思いながらずっと聞いたわけだが、とにかく多彩な音楽を次々に演奏された。

謎のカルテットとか言っておきながら、予習せずにライヴ観戦したわけだが、オリジナルを含めた幅広いジャンルの音楽を縦横に奏で、その全てを見事に自らのスタイルに料理してしまうのは、たまらなく爽快。オリジナル作品は変拍子かつ別ジャンルの曲がモチーフになっているとか、仕掛けが深すぎて面白く、我慢できないくらいにイイし、ジャズチューンなども硬派ですごいのだが、リスナーの立場からすると一貫して幸福感に浸ってしまうサウンド。

木琴やバンジョーの特徴的な音色や繰り出される超絶技巧なメロディやリズム、ドラムやベースから繰り出される知的なグルーヴに身を委ねていると、月並みだが絵本の世界に迷い込んだような気分になる。何の悩みもない、イヤな奴も一人もいない、毎日楽しいことばかりの世界。私たちが音楽を聴くっていうのは、そんな空気に包まれる体験や時間を求めているからだと思うのだが、そういう意味ではきつねのトンプソンの音楽は最高だ。聴けば完全に非日常にトリップする。もともと勝ち負けとかに興味がなく、年を取るにつれて、このような世界観への想いが強くなる一方のオッサンとしては、そのままこの世界に定住したい。

とはいいつつ、前述のように知的でマニアックな仕掛けは盛りだくさんだし、どう考えても各プレイヤーの技術が凄すぎるし、そういう左脳的な楽しみもある音楽。羊の皮をかぶった狼と言えるかもしれない。きつねとちゃうんかい。どこかの方向に振り切った「そこまでやりまっか?」な世界も大好きな私には、これまたたまらない。とにかく、あちこちから攻めてスルメのように味わう音楽であることは間違いない。

会計をしてもらおうとしたら、店のマスターが新しく届いたアクリル板と思われるものをヨッコラショと箱から取り出したりされていた。今の時代は、ホンマ大変だけど、こういう素敵な場所は是非盛り上がってほしいし、一緒に盛り上がりたい。いい音楽といい場所とで、幸せな世界を創るのだ!

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