北口功ギターリサイタル

2012年4月29日(日・祝)、大阪ザ・フェニックスホールにて。

家族で行きたかったが、「未就学のお子様の入場はご遠慮ください」とのことで、一人で行った。未就学でも、十分音楽を聴くことはできるんやけど。また、前売券は500円だけ安いので電話で予約しようとしたら、郵送料を含めて事前に振込んだらチケットを郵送してくれるとのこと。それやったら当日券でええわ。演奏者のポリシーと関係なく設定されているシステムなのだろうが、このへん、もっと便利にならんのかな。

さて、開場ギリギリに会場に到着したら、もう既に長蛇の列。とりあえず並ぼうと思って歩いていたら、行列の中から声をかけられた。1年半ぶりくらいに会う、学生時代の仲間の、女子大ギター部OG。お互い、家族とは別行動で一人で来てたので、一緒に並んで席をとった。2Fの一番前で、ステージがよーく見える席なのだが、なんか私の視線と手すりの高さが少しバッティングしてしまい、ちょっと見えにくかったりする。高所恐怖症なので、手すりがしっかりあるのは安心感があって、まぁいいか。

さて、今回のリサイタルは、前半と後半で異なるギターが使用された。前半は日本が世界に誇る製作家・松村雅亘(2000年)のもの、後半はスペインのドミンゴ・エステソ(1923年)のもの。

プログラムは、この数年(いや、10数年か)、北口氏が演奏している曲目が中心となっている(画像のチラシ参照)。ソルのグランド・ソナタは、それこそ私が学生だった頃から演奏されているので、もうかなり長く弾きこまれていると思うが、パンフによると「私(北口氏)の課題曲」とのこと。その他の曲も、既に何度かリサイタルやCDで演奏されるのを聴いた記憶がある。

まず、前半の演奏。何といっても、松村氏のギターの音が素晴らしい。気品と力強さとを兼ね備えた、エレガントな空気が薫ってくる。演奏者と聞き手をはさんでいる透明なはずの空気が、色彩をもっているようにさえ感じさせる。全ての弦の音のバランスが良いのは言うまでもないが、特に2弦、3弦あたりの音の味わいは、もう何と表現してよいのか。演奏も、特にソルのソナタは、今まで聴いたどの演奏よりも美しく感じた。例えば北口氏の1998年録音のCDに収録されている同曲の演奏は、演奏者の強い意志を感じさせる一方で、若さも(良い意味も含めて)印象的で聴く者の胸を熱くさせたのであるが、このリサイタルにおける同氏の演奏は、もっとユニバーサルな美を追求しているように感じた。要するに、作曲者の意図を美しく表現することであったり、更にいうならば音楽の美とはこういうことだと思うんですよ、という表現であったり、そんなことを感じた。上述のCDではブーシェ製作のギターを演奏、このリサイタルではブーシェの弟子である松村氏のギターを演奏、という巡りあわせでありながら、このリサイタルでの演奏に、より音楽のよろこびのようなものを(少なくとも私は)感じた。

しかし、このソルのソナタは、いつ聴いても長く感じるのも正直なところ。前半は、長くても長さを感じさせないのであるが、後半(テーマと変奏、メヌエット)は長く感じてしまう。この曲は、果たして名曲なのか?聴き手である私が成熟していないのか?

前半の最後には、シューベルトの4曲。編曲はメルツかな?ロマン派音楽には、これまた松村氏のギターの気品がよく似合うと思う。しかし、以前ロチェスターで聴いたラファエラ・スミッツの19世紀ギターによるシューベルト作品の演奏で受けた感動が忘れられず、いつも「現代のクラシックギターと、19世紀ギター、どちらを使用するのがいいのか?」と考え込んでしまう。これは愚問なのかもしれず、音楽として楽しめるならばそんなこと関係ないというべきなのか。スミッツの演奏はリラックスした印象の音楽であったが、北口氏の演奏は襟を正して聴く厳格な音楽という印象。シューベルトのリートの世界は、後者なのかもしれない。

休憩を挟み、後半は前半ほど重く感じないプログラム。ドミンゴ・エステソ製作のギターは、やや乾いた音色ながら、やはりしっかりした重厚な音を聴かせる。このギターで演奏された曲はいずれもこの楽器が製作されたのとわりと同じ時代のものであり、特にホセのソナタなどは、この楽器との相性が非常に良いと感じた。

アンコールは、バッハの無伴奏チェロ組曲第6番のガヴォットと、バリオスの祈り。後半に引き続き、エステソのギターで演奏された。

名器を使用したCDの発表やリサイタルの活動が多い北口氏の演奏、今回は更に熟成されたバランスの素晴らしさを堪能できた。重たいプログラムではあったが、リサイタル全体としての流れや完成度は以前よりも充実していると感じる。その一方で、曲目にはもっとバラエティを求めたいというのもファンの気持ちである。更に付け加えるならば、リサイタルの回数はもっと多くしてほしいとも思う。音楽業界が厳しい昨今、クラシックギターのリサイタル自体のビジネス性を考えると難しいのかもしれないが、小さなサロンコンサート的なものでもよいと思う。ジャズミュージシャンのように、休みなく毎晩のようにライブで演奏をする人々と比較すると、クラシックギターも同じようなスタイルがあってもよいのではないか、と思ったりしてしまう。

まだ持っていなかった「バリオス作品集」を購入し、サインをいただいて帰宅した。いろいろ感じたが、心地よい一日となった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です