金谷幸三 失われし望み

Forlorne_2関西在住の数少ない本格的なクラシックギタリストの一人、金谷幸三氏のCD「失われし望み≠FORLORNE HOPE」。

金谷氏は、1966生まれ、神戸出身。日本国内やパリ(国立高等音楽院、国際音楽大学)に学び、国内外の数々のコンクールで優勝や入賞をした輝かしい経歴を持つ。そのきわめて正統派の演奏スタイルは、エレガントで折り目正しい印象もあるが、同時にギターという楽器の繊細で優しいサウンドを極限まで追求した、ホンモノの美しさを湛えたものである。レパートリーはバロック以前のものから現代音楽まで幅広いが、特に現代ものにおいてはその演奏品質が他の追随を許さぬ高い評価を得ている。私自身の所感でも、現代音楽を真面目に手がける数少ないギタリストのうち、間違いなくトップレベルの音楽を聴かせるプレイヤーである。

Youtubeでもその素晴らしい演奏に触れることができる。例えば武満徹「フォリオス」の演奏など、もう他に何もいらないと思えるほどの絶品である。近年は11弦アルトギターにより、これまた新たな世界が展開されており、ギター好きには嬉しく感じる。

今回発表されたこのCDは、しかし、現代曲に特化したものではなく、H.パーセルからJ.ケージまでの幅広いレパートリーが取り上げられている。全て、使用楽器は11弦ギター。

J.ケージ作品では「夢」「In a Landscape」が取り上げられている。代表作(?)「4分33秒」などで「実験音楽」という印象が強いケージ作品群において、比較的、誰の耳にも馴染みやすいのではないかと思われるこれら2曲、ギターという楽器にとてもマッチしている。静かに、そこはかとなく流れ、時にゆらぎ、そしてまた流れ出す弦の音。生まれては減衰する音、そして新たに生まれる音がそこに絡むさまは、生命をもった水彩画か長大な絵巻物のようなものをイメージさせる。原曲、奏者による編曲、そして絶妙にコントロールされた演奏の全てが揃ったからこその効果であろう。

パーセルは、鍵盤のための組曲第1番と第2番。比較的シンプルなポリフォニーながら見事に音楽として流れ、まず演奏の技術の高さに驚く。端正かつ爽快な演奏なのだが、歌心も十分に感じられ、心地よい。

そして、ドビュッシーの「夢想」「ベルガマスク組曲」。これらの響き、衝撃的と言ってよいものだと思う。ドビュッシーのピアノ曲を編曲してギターで演奏するということ自体はこれまでにも「亜麻色の髪の乙女」「月光」など部分的には存在したものの、ここまでドビュッシーの音楽の響きを表現できたギター演奏は、過去にあっただろうか。11弦ギターだからこその音なのか、やはり演奏者の力量によるものなのか、おそらく後者なのだと思うが、もう、うっとりと耳を傾けるしかない、印象派ドビュッシーの理想的な音楽がここにはある。

収録曲は、そのほかにサティ「干からびた胎児」とダウランド「失われし望み」。紡ぎだされる音の世界に身を委ね、音楽を聴くことの喜びをかみしめる。とにかくギターという楽器の本当の美しさを知りたい人には、真っ先にこのCDを薦めたい。

“金谷幸三 失われし望み” への1件の返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です