ジャズギターおすすめ教則本(アドリブ編)

ジャズギターの最大の魅力のひとつ、アドリブ(即興)についてのおすすめ教則本を紹介する。

ジャズマスターシリーズ はじめてのジャズ セッションで困らないための必修スタンダード50曲 (ジャズ・マスター・シリーズ)(初級) ギターに限らず、ジャズのアドリブ初心者向け一般に書かれた教則本。アドリブの練習方法のイロハ(および初歩的な理論)、スタンダード曲の譜面、アドリブ例(CD付属)、という構成。アドリブの練習方法はサラッと書かれているので、これだけでは練習方法がよくわからないかもしれないが、アドリブ例とCDで、「ジャズのアドリブってこんな風にやるのね」という感覚が掴める。

 

聴く! 弾く! 学ぶ! ジャズ・ギター完全攻略 CD付(初級~中級) 有名なウェブサイト「ジャズギタースタイルマスター」の作者による著作。スタンダード曲とそれらに対するアドリブ例が紹介されている。非常に教科書的な素直なアドリブを演奏されているので、アドリブ入門としては最適だと思う。アドリブのフレーズに対して簡単な解説も記載されているので、どのように考えてフレーズを作ってゆけばよいのかがわかる。CD付属なので、更にわかりやすい。

 

続・目からウロコのジャズ・ギター[実践編](DVD付) (jazz guitar book Presents)(中級~) 「目からウロコのジャズ・ギター」の続編で、スタンダード曲のアドリブやコンピング(バッキング)などについての例と解説で構成される良書。アドリブに関しては、特にシンプルなフレーズが中心かつ簡単な解説も施されているため、発想がわかりやすい。もっと基本的なこととしては、前編「目からウロコのジャズ・ギター」での「アプローチ術」もおすすめ。

また、 この本は、コンピング(バッキング)の例もきわめて実践的なのでおすすめ。

 

ジャズギターの金字塔 スタンダード編(1)(初級~上級) 今は中古品しか入手できないようだが、良書。コードワークとアドリブについて、できるだけシンプルに考える方法が紹介されている。シンプルな発想という意味では、上述の「目からウロコのジャズ・ギター」と似ており、どちらもオススメ。「ジャズギター始めてみたけど、うまくいかない」「練習の仕方がわからない」という人は、一度、手にとってみてほしい。ただし、コード進行の基本的な考え方(トニック、ドミナント、代理コード等)を全く知らないという人には、わかりにくいかもしれない。
併せて、スタンダード曲のアドリブ例(CD付属)も紹介されており、これまた実践的なアドリブの勉強になる。

ジャズギターおすすめ教則本(コード編)

Chords and Progressions for Jazz and Popular Guitar (Guitar Books)(初級~) 洋書だが、ジャズギターで使う代表的かつ基本的なコードのフォームが紹介されており、オススメ。まずこの本の内容を習得しておき、あとは下で紹介する「続・目からウロコのジャズ・ギター」などで実践的なワザを勉強するというのが良いと思う。

 

実践! ジャズ・ギター・コードワーク・バイブル コードワークを学ぶ上で必要な理論体系の決定版(初級~) 私は旧版を持っている。ジャズギターで使う代表的なコードのフォームなどがコンパクトに解説されている。上の「Chords and Progressions of …」の代わりにこの本でも良いかもしれない。

 

続・目からウロコのジャズ・ギター[実践編](DVD付) (jazz guitar book Presents)(中級~) 「おすすめ教則本(アドリブ編)でも紹介した本だが、セッションにおける実践的なコンピング(バッキング)のやり方が豊富に紹介されている。コンピングのネタがこれほどまとまって紹介されている本は、他に見たことがない。おすすめ。

ジャズギターおすすめ教則本(基礎編)

ジャズギターを練習するにあたっての、基本的な書籍を紹介する。理論の勉強や、ジャズの練習方法、心構えなどについて書かれた本。

1. 理論
The Jazz Theory Book (Mark Levine)

The Jazz Theory Book

マークレヴィン ザ・ジャズ・セオリー

基本的な理論の勉強は必要。その意味では、Jazz Theory Bookは分厚くて内容が充実し過ぎていると思うが、豊富な譜例があって面白いので、飽きずに読み進むことができる。英語版でも平易な英語で読みやすいが、日本語版でも良いかもしれない。

当ブログでの過去の紹介文

2. 曲集
(1) ジャズ・スタンダード・バイブル(納浩一)

ジャズ・スタンダード・バイブル ~セッションに役立つ不朽の227曲 (CD付き)

上達のために不可欠なのが、ジャムセッション参加。セッションで演奏されるのがスタンダード。なので、スタンダード曲をたくさん知っておくことが重要。スタンダード曲集の類はいくつか出版されているが、この「ジャズ・スタンダード・バイブル」は多くのジャムセッションで参加者から「黒本」の愛称で愛用されている、ほぼ業界標準となっているもの。ジャズを志す者なら、持っていて損はない、というか必携といってよいだろう。

(2) ジャズ・スタンダード・コレクション(菅野義孝)

セッションの現場ですぐに使えるジャズ・スタンダード・コレクション100

上記「黒本」の他にも、この「ジャズ・スタンダード・コレクション」もスタンダード曲集として高い人気を得ている本である。発売直後から「白本」の愛称で親しまれている。この本、黒本よりも収録曲数が少ないが、いくつかの点において黒本よりも使い勝手が良い。各曲のコード進行の分析が見開き右ページにきっちり記載されているので、アドリブや転調などの目的にはピッタリである。練習のお供として手元に置いておきたい。私は黒本→白本の順に入手したので両方持っているが、もし片方しか入手しないのであれば、初心者は白本、中級以上なら黒本、かなぁ

3. その他

(1) ジャズの壁を超える100のアイディア(布川俊樹)
ジャズの壁を超える100のアイディア (jazz guitar book Presents)

ジャズを演奏するために、どのような練習をすればよいのか、何が大事なのか、などがQ&A形式でわかりやすく解説されている。以前、著者布川氏のウェブサイトに掲載されていた非常に有名なQ&Aコーナーをベースにしたもの。私はもう、何度も読み返したが、読むたびに気づきを与えてくれる名著。

当ブログでの過去の紹介文

(2) ジャズギター理論読本(矢堀孝一)

矢堀孝一のギター理論読本
書名は「理論読本」だが、いわゆる理論の解説書ではないので、冒頭の「1. 理論」の項に分類しなかった。どちらかというと「理論」とどのように付き合うべきか、について著者自身の考え方を紹介している本。ではあるが、一般的にいう「理論」とは直接関係なさそうな多彩なテーマについて語っている章も多い。ただし、そのいずれもが非常に興味深いし、矢堀氏ならではの理知的なアプローチでジャズギターの上達法を追求した話題ばかりで、非常にためになる。この本も、私は折に触れて書棚から取り出して読み返している。

ジャズギターおすすめ教則本

ジャズギターを練習し始めて10年以上。気がついたら教則本の類をかなり入手してきていた。よく使った(使っている)もの、ほとんど使わなかったものなど混在しているが、その中から特にオススメのものを紹介する。

何事も書籍集めから入ってしまう癖を存分に発揮し、良書と推測されるものは一通り入手し、読んだり練習に活用したりした上での評価なので、それなりのご紹介ができていると自負している。ただし、最終的にはあくまで私にとって良いと評価できた本をピックアップした。

また、ここで紹介していない教則本でも「部分的に良い」と評価できるものはたくさんある。それらを全て紹介していると、情報として混乱を招くので、あえて割愛した。

私自身の考え方が変わって、ここで推薦する書籍が入れ替わる可能性もある。

ジャズギターの金字塔 スタンダード編1

布川俊樹氏の名著「ジャズギターの金字塔」の「スタンダード編1」。この本は、私が初めて購入したジャズギターの教則本である。あれから十数年、時々取り出しては読み直している。

前半は、重要テーマである「コードワーク」と「アドリブソロ」を中心に、それらの考え方や実際の譜例、および解説。後半は、スタンダード曲のアドリブ例と簡単な解説(CD付属)。

正直に言うと、もともとクラシックギターしか知らなかった私は、はじめはこの本を読んでも「?」であった。その後、プロのレッスンを受けたり、自分で色々と勉強したり調べたりするにしたがって、この本のシンプルな発想が理解できるようになった。要するにコード毎のアヴェイラブルなスケールを当てはめてソロを弾こうというような考え方をせず、もっとシンプルにトニック/ドミナント/サブドミナントを弾き分けていこうという発想。ひょっとしたら、ロックなどのジャンルからジャズに入ってくる人は、私のケースよりもすんなり理解できるものなのかもしれない。

私は、結局、いろいろと回り道をしながら、時々この本の考え方で頭の中を整理し、そしてまた複雑な迷路に旅立つ(笑)ということを繰り返している。上達すればするほど、この本のありがたみが理解できる気がする。

この本の前半に書かれていることは概ね頭に入ったので(全てのフレーズを憶えたという意味ではなく、自分で考えられるようになったという意味)、最近は後半のスタンダードの演奏例を勉強中。

ジャズギターの金字塔 スタンダード編(1) 決定版!ジャズ・ギターの金字塔 豊富な譜例とジャズ・スタンダード13曲の模範演奏を収録(CD2枚付き)

廃刊された後に数年前に復刻版が出版されたが、それも現在は新品は流通しておらず、Amazonなどでの中古品の出品しかないようなのが残念。

2012年夏に初めて布川氏のライブに行って、旧版の扉にサインをいただき、この本はますます私にとって宝物になってきた。宝物ではあるが、実用書として遠慮なく使いたおしている。

New website of Bob Sneider

米国に住んでいた時に師事していたジャズギターの師匠Bob Sneider氏がウェブサイトを自分で作り直したらしい。まだ情報量が少ないが、これから書き足してゆくとのこと。

Bob Sneider – guitarist

Bob Sneider氏は、米国の音楽大学ランキングトップのEastman School of Music(University of Rochester音楽学部)のAssistant Professorであり、同大学のCommunity Education DivisionのSenior Instructorも兼任。音楽都市ロチェスターのジャズを代表するプレーヤーの一人である。

Bob

ちょうど最近、彼のCDをあらためて聴きなおしたりtranscribeしたりしていたところ。なんかグッドタイミングな気がする。

年末には、最近の自分の演奏の録音をメールで送って「上達したな!」とコメントをいただいた。師匠に少しでも近づけるよう、これからも修行しなければならんと思う。

Keith Jarrett “Bop-Be”

びわこジャズフェスティバルで演奏する予定のBop-Be、作曲者Keith Jarrett自身による演奏が聴きたくて入手。American Quartetによる最後の作品(1977)。Keith Jarrettにとっては、ECM以外での最後の録音(ただし、1990年代にリコーダーのMichala Petriとのクラシック作品の録音がRCAにあるのが例外)。

バップ・ビー

  • Keith Jarrett (pf)
  • Dewey Redman (ts)
  • Charlie Haden (ba)
  • Paul Motian (ds)

かなりオモロい感じのアルバムだ。各パートが綺麗によく聴こえる録音。特にベースがよく聴こえて、気持ちよい。

1曲目”Mushi Mushi”。ムシムシってナンデスカ?以前、米国で日本語で「もしもし」って電話してたらスペイン語圏の友人が「ムシムシ」と言って真似してた。ムシムシに聞こえるらしい。このMushi Mushiはそれなのか?不明。ま、いいか。

Charlie Hadenによる”Silence”は、タイトル通り、静かな印象の曲。ただし、バラードという感じではない。

で、アルバムタイトル曲はサックスを除いてピアノトリオでの演奏。Keith Jarrettは延々とアドリブソロ。ノリまくっている。次のコーラスの途中からのCharlie Hadenのベースソロは、どういう譜割りのつもりなのか、何度聴いてもよくわからん。ドラムとピアノのリズムに乗っかって自由に弾いている感じ。この曲は、なんかおちょくったような、冗談めいた雰囲気を持っていると思う(タイトルからして、なんかふざけた感じだ)が、このトリオでの演奏は全然ナメた感じじゃなくて、洗練されたリズム・ハーモニー・メロディーを聴かせる。さすが一流だ。

続いての”Pyramids Moving”はサックス+パーカッションでのフリージャズ風の曲。続く”Gotta Get Some Sleep”は再びカルテット。

そして”Blackberry Winter”には、完全に打ちのめされた。L.McGlohonとA.Wilderによるバラード作品、ここではまたピアノトリオによる演奏。この、限りなく美しい濃密な音楽。これは一体、何なんだ!神懸ったドラムとベースのリズムに包まれて、ゆったりと歌うKeith Jarrettのピアノ、しかし決してサラリと軽く流れることがない、ひたすらに濃い時間。もう一回叫ぶけど、これは一体、何なんだ!矛盾する表現だが、このリラックスとヒーリングを生み出す、もの凄い緊張感。これを聴いて、Keith Jarrettが1996年頃から慢性疲労症候群に悩まされたというのが、わかる気がする(※)。彼は、これだけ全身全霊を捧げて音楽を創り出していた(いる)のだ。

(※)医学的根拠とは関係なく、あくまでリスナーとしての印象を書いた。慢性疲労症候群は原因不明の疾患で、単なる心身の「疲れ」とは異なるものらしい。

Blackberry Winterって造語かと思ったら、米国南部の春の寒い日を指す言葉なのね。北部に住んでいたので、一度も聞いたことなかった。北部は、春でもそこそこ寒かったし。ま、ピアノトリオによるこの演奏は、そんなタイトルや歌詞を知らなくても、ひたすら美しいのだが。

でも、やっぱりこれでアルバムを締めくくるのではなく、最後はCharlie Haden作曲の”Pocketfull of Cherry”。Blackberryの次はCherryですか。American Quartetらしい演奏で、明るく楽しく終わる。

複数の編成が入れ替わりで出てくるし、異なった曲想の曲が盛り込まれており、盛りだくさんな内容の一枚だ。大満足。

ベースとデュオ練習

びわこジャズフェスティバルに出演させてもらえることになったので、練習にも張り合いが出てきたこの頃。今月はピアニストの都合がつかなかったので、三連休の最終日にベーシストKさんとデュオで練習。

自分のリズムの悪さに落ち込んだが、裏を返せば、めちゃ勉強になった。フェスティバルで演奏する予定の5曲を練習したのだが、

  • ベースソロの時のコンピング
  • タイトなテンポ

が全然ダメ。メトロノームを鳴らしながらセッションしてみたら、テンポ揺れまくってるのが明白。持ち直そうとしたらテーマ弾き間違えたり、散々。ベースとはうまくかみ合って弾いてるつもりだったのだが・・・

ベースソロの時は、ギターがもっとタイトにザクザク刻むべきだったかもしれない。ベース聴きて合わせながら弾こうとしているのがダメだと思い、途中からはギターがきっちりリズムを刻むよう試みたが、ベースは弾きにくそうな雰囲気。録音を聴きなおして、考えよう。まずは、メトロノームに合わせてタイトなテンポでコンピングをひたすらやるか。

ベース&ギターというフォーマットは、難しいだろうと予測していて、実際やってみたらその通りだったのだが、ごまかしがきかないので、かなりいい練習にもなりそうだし、サウンドも良いと思う。ベースの存在感も抜群で心地よい。

Alone Together

180くらいのテンポだとBop-Beのテーマで指が回らなかったりしたので、基本的なピッキングの見直しも含めて、練習、練習・・・

金谷幸三サロンコンサート

2013年1月25日(金)、フレット楽器ヤマサキにて。

言わずと知れた、関西が世界に誇る本格派クラシックギタリスト、金谷幸三氏。泣く子も黙る正統派クラシカルながら、小さめの会場で聴衆とコミュニケーションしながらの演奏会を多く開催されており、根強いファンを抱える奏者。今回も20名限定のサロンコンサートであり、慌てて予約した次第。

そんなこと言いながら、実は私は金谷氏の演奏を生で聴くのはおそらく10年ぶりくらい。恥ずかしい限りだ。

会場は大阪のフレット楽器ヤマサキ。私が今も愛用している三浦隆志氏製作ギターを20年以上前に購入したフレット楽器オザキの系列店。地図を見ながらたどり着いた。少し早すぎるが、入っちゃえと思って入ったら、既に集まったファン向けに金谷氏が演奏を聴かせていた。この雰囲気こそが、まさにサロンコンサート。皆がリラックスして、奏者は「何かリクエストありますか?」って語りながら時間が進んでゆく。ドリンク付きのコンサートなので、私はコーヒーをお願いして席につく。ヴィラ=ロボスのプレリュードNo.5の、何とも美しすぎる音。

公式な開始時刻になり、コンサート開始。記憶している曲目はこんな感じ(順番は忘れた):

6弦ギター

  • ロドリーゴ/祈りと踊り
  • バッハ/無伴奏チェロ組曲No.6よりアルマンド、ガヴォット
  • ソル/魔笛の主題による変奏曲
  • デュアート/カタルニア民謡の主題による変奏曲
  • バリオス/フリア・フロリダ、ワルツNo.4
  • カヴァティナ(アンコール)

11弦ギター

  • アテニャン/花咲く命ある限り
  • ドビュッシー/夢想、月光

6弦ギターは、ケヴィン・アラムだろうか。オープニングのロドリーゴでは、少しデッドな感じであったが(会場のせいか?)、すぐに気にならなくなったのは、奏者の指がリラックスして動き始めたからか?奏者自身「緊張する」と言いつつ、得意のレパートリーを中心としたプログラムで、どの曲も気持ちよく聴ける。

個人的には、金谷氏が近年積極的に取り組まれている11弦ギターの演奏がとても良かったと思う。このドビュッシーの演奏は他のギタリストでは聴いたことがない美しい世界を創り出している。聴いたことない人は、CD買うべし。このCD、「レコード芸術」誌で「準特選」盤に選定されたもの。流石である。

アンコールのカヴァティナは、映画「ディアハンター」のテーマなので、地元・奈良で弾くのはマズいんじゃないか(笑)という発言もあり。なるほど。

終了後に、ご無沙汰してますと金谷氏から声をかけていただき、しばし会話。だいぶ前のミュライユの演奏の録音を見つけたのでYouTubeにアップしたそうな。

こういうスタイルのサロン・コンサート、是非たくさん開催してほしいと願う。

大阪コレギウム・ムジクムの第363回マンスリー・コンサート

2013年1月23日(水)、日本福音ルーテル大阪教会にて。

会社の同僚かつ大学の後輩M君が大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団に所属していることもあり、時々この大阪コレギウム・ムジクムのコンサートを聴きに行っている。

私はこの楽団の、このマンスリー・コンサートがとても好きだ。何が好きなのかというと、ほどよいサイズの奏者数(室内楽やから人数は自ずと決まってくるのだが)、演奏者の雰囲気、そして当然ながら演奏のクォリティである。弦楽を中心とする器楽奏者や合唱団員は、失礼かもしれないが、隣に住んでいそうなフツーのオッチャン、オバチャン、ニイチャン、ネエチャンの雰囲気で、不自然に気取ることがない(強いていうならば、リーダの当間修一氏が只者でない印象だが)。本当に爽やかなプロ集団。そんなプレイヤーの人々が、聴衆と気持ちの良い距離で、気持ちの良い笑顔で、しかし一流の演奏をきかせてくれる。いつも「音楽の本来の楽しみ方というのは、きっとこんな感じなのだろうな」と思ってしまう。室内楽かくあるべし。演奏者も聴衆も肩肘張らず、心地よい至近距離で、音の響きを楽しむのだ。

さて、今回の曲目は次の通り:

  • A. ヴィヴァルディ/弦楽のための協奏曲 ト長調 「田舎風」 RV151
  • W. A. モーツァルト/ディヴェルティメント 変ロ長調 K. 137
  • A. ドヴォルザーク/弦楽五重奏曲 第2番 ト長調 Op. 77
  • H. シュッツ/「宗教的合唱曲集」より(連続演奏シリーズ)
     第18曲「もろもろの天は神の栄光を語り」
     第19曲「心からあなたを愛します、おお主よ」
  • J. ブラームス/「何故に労苦する人に光を与え」Op. 74-1
  • 讃美歌連続演奏シリーズ
     第二編259番「主よ、われらを祝し」
  • 混声合唱曲集「日本・こころのうた」より
     鈴木憲夫編曲/こもりうた
     当間修一編曲/雪

まずは、ヴィヴァルディ。いつもながら、清清しく絡み合う弦楽とチェンバロの響きでスタート。モーツァルトのディベルティメントも、エレガントな音楽。アンサンブルのうち、コントラバスの音が比較的明瞭に聴こえており、全体のバランスが良く感じられた。

前半最後は、ドヴォルザークの弦楽五重奏。ドヴォルザークらしい旋律が散りばめられた曲であったが、ちと長かった。楽章同士のコントラストがあまり強くないからだろうか、正直、少し間延びした感があった。演奏はひたすら綺麗なハーモニーを聴かせていたので、まぁ演奏者というよりも作曲者に起因するものと考える。

休憩時間はいつも通り、お茶とお菓子。特に腹が減っているわけではないのだが、なんか嬉しい。この雰囲気が、和気藹々としていて、大好きだ。

後半は、全てハインリッヒ・シュッツ合唱団によるア・カペラ。毎年、オーディションによってメンバを選考しており、レベルが維持されているらしい。恐るべし、合唱界の虎の穴。ちがうか。で、2月にオーディションがあるため、今回のメンバによるステージはこれが最後とのこと。まずは団名にもなっているシュッツを2曲。次にブラームスの「2つのモテット」から「何故に苦労する人に光を与え」、これがこのコンサートの白眉であった。曲目通りの歌詞、冒頭の荘厳な”Warum(何故)”の響きが、ダイレクトに胸を打つ。このハーモニーの美しさ、力強さ、迷いを断ち切った潔さは、いったい何に例えればよいのだろう?思わず、「おおぉ」とため息をつきそうになった。

最後は、日本の子守唄、童謡「雪」でかわいくコンサートが締めくくられた。アンコールは、なし。ダラダラと意図不明なアンコール要求(ホンマに求めてるのか?)が続くコンサートに違和感を覚える私としては、アンコールなしというのはとても良いと思う。少し寒さが和らいだ1月の晩のマンスリー・コンサート、満足しながら会場を後にした。